歯列矯正の痛みへの対処法〜認定医が教える8つの緩和方法
歯列矯正中の痛みはなぜ起こる?

歯列矯正を始めると、多くの患者さんが痛みを経験します。私が院長を務めるみなみもりまちN矯正歯科でも、患者さんから「痛みはどのくらい続くのですか?」という質問をよく受けます。
歯列矯正中の痛みは避けられないものですが、その仕組みを理解することで対処法も見えてきます。
矯正治療では、歯に一定の力をかけて少しずつ動かしていきます。この過程で歯の周りの骨が吸収と再生を繰り返すため、炎症が起こり痛みとして感じるのです。これは歯が正しく動いている証拠でもあります。
矯正治療で痛みを感じやすいタイミング
痛みを感じるタイミングは主に3つあります。まず、矯正装置を初めて装着した直後。次に、定期的な調整を行った後。そして、マウスピース矯正の場合は新しいマウスピースに交換した直後です。
特に調整から2〜3日後が最も痛みが強くなる傾向があります。多くの患者さんは1週間程度で痛みが和らいでいきますが、個人差もあります。
歯に圧力がかかると、歯根膜という組織が圧迫され、炎症反応が起こります。この炎症により痛みを感じるのですが、これは歯が動くための必要なプロセスなのです。
日本矯正歯科学会認定医として多くの患者さんを診てきた経験から言えることは、痛みの感じ方には個人差があるということ。同じ治療でも、ほとんど痛みを感じない方もいれば、強い痛みを訴える方もいらっしゃいます。
痛みの種類と原因
矯正中に感じる痛みには、主に3種類あります。
1つ目は「歯が動く痛み」です。これは歯に圧力がかかり、歯周組織に炎症が起きることで生じます。「歯が浮いたような」「うずくような」痛みとして感じることが多いです。
2つ目は「装置が当たる痛み」です。ワイヤー矯正の場合、ブラケットやワイヤーが頬や舌に当たって口内炎ができることがあります。これは装置に慣れるまでの一時的なものですが、不快感を伴います。
3つ目は「噛む際の痛み」です。食事の際に強く噛むと痛みを感じることがあります。これは歯が動いている最中で敏感になっているためです。
どうしても我慢できないほどの痛みや、2週間以上続く痛みがある場合は、必ず担当医に相談してください。何か問題が生じている可能性もあります。
歯列矯正の痛みを和らげる8つの方法

矯正治療中の痛みは避けられないものですが、いくつかの方法で和らげることができます。長年の臨床経験から、効果的な8つの対処法をご紹介します。
これらの方法を組み合わせることで、矯正治療中の不快感を最小限に抑えることができるでしょう。
1. 矯正用ワックスを使用する
ワイヤー矯正をしている方にとって、矯正用ワックスは必須アイテムです。装置が頬や舌に当たって痛む場合、ワックスで保護すると痛みが和らぎます。
使い方は簡単です。適量のワックスをまるめ、痛みを感じる装置の部分に優しく押し付けるだけ。食事や歯磨きの際には外れてしまうので、必要に応じて付け直してください。
矯正用ワックスは歯科医院でもらえますが、予備として市販のものを持っておくと安心です。特に矯正治療を始めたばかりの時期は、頻繁に使用することになるでしょう。
私の患者さんの中には、ワックスのおかげで快適に矯正生活を送れるようになった方も多くいらっしゃいます。小さな工夫ですが、大きな違いを生み出すことがあるのです。
2. 冷やして炎症を抑える
歯の痛みには、冷やすことが効果的です。保冷剤や氷を薄い布で包み、痛みを感じる部分の頬に当てましょう。10分程度冷やすと、炎症が抑えられて痛みが和らぎます。
特に調整直後や、夜間に痛みが強くなったときに試してみてください。身体が温まると痛みを感じやすくなるので、お風呂上がりや寝る前に冷やすと効果的です。
ただし、あまり長時間冷やしすぎると矯正力が弱まる可能性があります。また、直接氷を歯に当てるのは避け、必ず布などで包んでから使用してください。
冷やす方法は、薬を使わずに痛みを和らげられる自然な方法として、多くの患者さんに好評です。
3. 痛み止めを適切に使用する
どうしても痛みが強い場合は、市販の痛み止めを服用するのも一つの方法です。ロキソニンやイブプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が効果的です。
ただし、頻繁に服用すると歯の移動が遅くなる可能性があります。これは、痛み止めが炎症を抑えることで、歯の移動に必要な生理的プロセスを遅らせてしまうためです。
痛み止めは調整直後の強い痛みがある時や、夜間痛みで眠れない場合など、必要な時だけ使用するようにしましょう。用法・用量を守り、長期間の連続使用は避けてください。
心配な場合は、担当の矯正医に相談してから使用することをお勧めします。
4. 柔らかい食べ物を選ぶ
矯正治療中、特に調整直後は歯が敏感になっているため、硬い食べ物を噛むと痛みが増すことがあります。そのため、柔らかい食べ物を選ぶことで痛みを軽減できます。
おすすめは、お粥、豆腐、茶碗蒸し、ヨーグルト、バナナなどの柔らかい食品です。スープやシチューなど、噛む必要が少ない料理も良いでしょう。
また、食べ物を小さく切って食べることも効果的です。大きく口を開けて噛み切る必要がなくなるため、前歯の痛みが軽減されます。
痛みが強い時期は一時的に食事内容を変えることで、快適に過ごせるようになります。痛みが落ち着いてきたら、徐々に通常の食事に戻していきましょう。
5. 歯ぐきをマッサージする

歯ぐきを優しくマッサージすることで、血行が良くなり痛みが和らぐことがあります。清潔な指や歯ブラシの柔らかい部分で、痛みを感じる歯の周りの歯ぐきを円を描くように優しくマッサージしてみましょう。
マッサージは1回につき2〜3分程度、1日に数回行うと効果的です。強く押しすぎないよう注意し、心地よい程度の力加減で行ってください。
歯ぐきマッサージは血行を促進するだけでなく、リラックス効果もあります。痛みに対する心理的な不安も和らげてくれるでしょう。
私の臨床経験では、定期的に歯ぐきマッサージを行っている患者さんは、矯正中の不快感が少ない傾向にあります。
6. 矯正用の痛み緩和グッズを活用する
最近では、矯正治療中の痛みを和らげるための専用グッズも登場しています。例えば、低周波振動を与えるバイブアジャストメントという装置は、歯の移動を促進しながら痛みも軽減する効果があると報告されています。
バイブアジャストメントは、1日数分使用するだけで効果が期待できます。振動が歯周組織の血行を促進し、痛みの原因となる炎症物質を分散させる働きがあるとされています。
また、近赤外線を照射するオーソパルスという装置も、痛みの緩和と治療期間の短縮に効果があるという研究結果が出ています。これらは矯正歯科医院で相談してみるとよいでしょう。
ただし、これらの装置は比較的新しい技術であり、効果には個人差があります。使用を検討する場合は、必ず担当医と相談してください。
7. 口内炎ケア用品を使う
矯正装置が頬や舌に当たって口内炎ができることがあります。このような場合は、口内炎治療用のジェルや軟膏が効果的です。
市販の口内炎パッチや軟膏を使用すると、痛みを感じる部分を保護し、治癒を促進します。特に就寝前に使用すると、夜間の痛みを軽減できるでしょう。
また、ビタミンB2やB6を含む食品を積極的に摂ることも口内炎の予防や治癒に役立ちます。レバーやうなぎ、チーズ、納豆などがビタミンB2を多く含み、マグロや鶏肉、バナナなどにはビタミンB6が豊富に含まれています。
口内環境を清潔に保つことも大切です。アルコールを含まない口腔洗浄剤でうがいをすると、炎症を抑える効果があります。
8. 定期的に歯科医院で相談する
痛みが強く続く場合や、装置に問題がある場合は、我慢せずに担当医に相談しましょう。場合によっては、ワイヤーの調整や装置の修正が必要かもしれません。
特に「眠れないほどの痛み」「2週間以上続く痛み」「急に強い痛みが出た」などの症状がある場合は、早めに受診することをお勧めします。
定期検診の際には、痛みの状況を正直に伝えてください。痛みの程度や場所、いつ痛むかなどの情報は、適切な対処法を考える上で重要です。
私たち矯正歯科医は、患者さんの痛みを最小限に抑えながら効果的な治療を提供することを目指しています。遠慮なく相談してください。
痛みの期間はどのくらい続く?
「この痛みはいつまで続くの?」これは多くの患者さんが抱く疑問です。矯正治療中の痛みの持続期間について詳しくお話しします。
一般的に、矯正装置の調整後や新しいマウスピースに交換した後は、2〜3日が最も痛みを感じやすい時期です。その後、徐々に痛みは和らいでいき、1週間程度で多くの方は痛みがほとんど気にならなくなります。
ただし、これには個人差があります。痛みに敏感な方や、大きな歯の移動が必要な方は、より長く痛みを感じることもあります。
治療段階による痛みの違い
矯正治療の段階によっても、痛みの感じ方は変わってきます。
治療初期は、装置に慣れていないこともあり、不快感を強く感じる方が多いです。特に装置が頬や舌に当たる違和感は、初めての方にとって大きなストレスになることがあります。
中期になると、装置に慣れてくるため物理的な不快感は減少します。ただし、大きな歯の移動が行われる時期でもあるため、調整後の痛みはまだ感じることがあります。
治療後期になると、細かな調整が中心となるため、痛みはかなり軽減されてきます。多くの患者さんは、この頃には矯正治療の痛みにも慣れ、あまり気にならなくなるようです。
痛みの感じ方は人それぞれですが、時間の経過とともに必ず和らいでいくことを覚えておいてください。
マウスピース矯正とワイヤー矯正の痛みの違い
矯正方法によっても、痛みの感じ方に違いがあります。
ワイヤー矯正は、一般的にマウスピース矯正よりも痛みを強く感じる傾向があります。特に調整直後は強い圧力がかかるため、痛みを感じやすいです。また、装置が頬や舌に当たって口内炎ができることもあります。
一方、マウスピース矯正は比較的痛みが少ないと言われています。これは、マウスピースが歯に均等に力をかけるためです。ただし、新しいマウスピースに交換した直後は、やはり痛みを感じることがあります。
どちらの方法でも、痛みは一時的なものであり、徐々に慣れていくものです。矯正方法の選択は、痛みだけでなく、治療の目的や生活スタイルなども考慮して決めることが大切です。
痛みを最小限に抑える矯正治療の選び方
矯正治療を始める前に、痛みを最小限に抑えるための選択肢について知っておくと良いでしょう。
最近の矯正治療は、患者さんの負担を減らすための技術が日々進化しています。痛みに敏感な方や、痛みに不安を感じる方は、以下のポイントを参考にしてみてください。
最新技術を取り入れた矯正装置
従来のブラケットに比べ、最新の自己結紮型ブラケットは、ワイヤーとの摩擦が少なく、より弱い力で歯を動かすことができます。そのため、痛みが軽減される傾向があります。
また、形状記憶合金を使用したワイヤーは、体温で温められると一定の弱い力を持続的にかけるため、強い痛みを感じにくいという特徴があります。
マウスピース矯正も、痛みを軽減する選択肢の一つです。透明なマウスピースで徐々に歯を動かしていくため、ワイヤー矯正に比べて痛みが少ないと言われています。
ただし、どの方法が最適かは、歯並びの状態や治療の目的によって異なります。担当医と相談しながら、自分に合った方法を選びましょう。
まとめ:痛みを乗り越えて理想の歯並びへ
歯列矯正の痛みは避けられないものですが、適切な対処法を知っておくことで、より快適に治療を進めることができます。
今回ご紹介した8つの対処法をまとめると:
- 矯正用ワックスを使用して装置による刺激を軽減する
- 痛みのある部分を冷やして炎症を抑える
- 必要に応じて痛み止めを適切に使用する
- 柔らかい食べ物を選んで歯への負担を減らす
- 歯ぐきをマッサージして血行を促進する
- 矯正用の痛み緩和グッズを活用する
- 口内炎ケア用品を使って粘膜の痛みを和らげる
- 痛みが強い場合は歯科医院で相談する
矯正治療中の痛みは一時的なものであり、多くの場合1週間程度で和らいでいきます。また、治療が進むにつれて痛みに対する耐性もついてきます。
痛みがあるからといって治療を諦めてしまうのはもったいないことです。理想の歯並びは、見た目の美しさだけでなく、噛み合わせの改善や口腔衛生の向上など、多くのメリットをもたらします。
私たち矯正歯科医は、患者さんの痛みや不安に寄り添いながら、最適な治療を提供することを心がけています。痛みや不安があれば、遠慮なく担当医に相談してください。
みなみもりまちN矯正歯科では、患者さん一人ひとりの状態に合わせた丁寧な治療を心がけています。矯正治療に関するご質問やご相談があれば、お気軽に当院までお問い合わせください。美しい歯並びへの第一歩を、一緒に踏み出しましょう。
詳しい情報や無料相談のご予約は、みなみもりまちN矯正歯科のホームページをご覧ください。大阪市北区での矯正治療なら、日本矯正歯科学会認定医による専門的な治療をご提供いたします。
著者情報
院長 農端 健輔

経歴
2007年大阪歯科大学 卒業
2012年大阪歯科大学大学院私学研究科博士課程修了
2012年大阪歯科大学歯科矯正学講座において助教として勤務
2016年日本矯正歯科学会 認定医取得
2017年みなみもりまちN矯正歯科 開設
所属団体
近畿東海矯正歯科学会
日本矯正歯科学会
日本顎変形症学会
日本口蓋裂学会
World Federation of Orthodontists






