歯列矯正の治療計画と流れ〜初診から終了までの全工程解説
歯列矯正治療を始める前に知っておきたいこと
歯並びの悩みを抱えている方は少なくありません。見た目の問題だけでなく、噛み合わせの不具合による頭痛や肩こり、発音の問題など、生活の質に影響を与えることもあります。
歯列矯正は、そんな悩みを解決するための治療法です。しかし、「どのくらいの期間がかかるのか」「費用はどれくらい必要なのか」「痛みはあるのか」など、不安や疑問を抱える方も多いでしょう。
矯正治療は一般的に長期間にわたるため、治療を始める前に全体の流れを把握しておくことが重要です。治療計画をしっかり理解することで、心の準備ができ、安心して治療に臨むことができます。
私は矯正歯科医として多くの患者さんの治療に携わってきましたが、治療前の不安を和らげるためには、治療の全体像を理解していただくことが何よりも大切だと実感しています。
この記事では、歯列矯正の初診から治療終了までの流れを詳しく解説します。矯正治療を検討されている方の不安を少しでも解消し、安心して治療に臨めるようにお手伝いできれば幸いです。
歯列矯正の初診〜検査までの流れ
矯正治療の第一歩は、初診相談です。ここでは初診から検査、診断までの流れを詳しく見ていきましょう。
初診相談で何が行われるのか
初診相談では、まず患者さんのお悩みや希望をじっくりとお聞きします。「前歯が出ている」「歯並びがガタガタしている」「噛み合わせが悪い」など、具体的な悩みをお聞かせください。
その後、簡単な口腔内診査を行い、現在の歯並びや噛み合わせの状態を確認します。この段階では、レントゲン撮影を行うこともあります。初診相談の所要時間は一般的に30分〜1時間程度です。
初診相談では、おおよその治療方針や期間、費用についても説明します。矯正装置の種類や特徴、メリット・デメリットなどの説明も行いますので、分からないことがあれば遠慮なく質問してください。
初診相談は多くの矯正歯科医院で無料で行っているところが多いですが、医院によって異なりますので、事前に確認しておくとよいでしょう。
どう思いますか?矯正治療を始める前に、しっかりと医師とコミュニケーションを取ることが大切です。
精密検査で何を調べるのか

初診相談の後、矯正治療を進めることになった場合は、精密検査を行います。精密検査では、より詳細な情報を得るために様々な検査を実施します。
主な検査内容は以下の通りです。
- ・口腔内・顔面写真撮影
- ・レントゲン撮影(パノラマX線写真、頭部X線規格写真など)
- ・歯型採得(印象採得)
- ・咬合検査
- ・顎機能検査
- ・必要に応じてCT撮影
特に重要なのが頭部X線規格写真(セファログラム)です。この検査は、顎の骨格や歯の位置関係を分析するために欠かせません。日本臨床矯正歯科医会でも、適切な矯正歯科治療を受けるための重要な検査として位置づけています。
歯型採得は、歯や歯茎の形を正確に記録するために行います。従来は歯型材という粘土状の材料を使用していましたが、最近ではデジタルスキャナー(iTeroなど)を使用する医院も増えています。
これらの検査結果をもとに、医師は詳細な分析を行い、最適な治療計画を立案します。精密検査の所要時間は約45分〜1時間程度です。
治療計画の立案と説明
精密検査の結果をもとに、医師は患者さん一人ひとりに合った治療計画を立案します。この段階では、様々な角度から検討を重ね、最適な治療方法を導き出します。
診断結果の説明と治療方針の決定
精密検査から約1〜2週間後、診断結果の説明と治療方針の提案を行います。ここでは、現在の歯並びや噛み合わせの問題点、その原因、そして治療によって期待できる改善点について詳しく説明します。
治療方針の説明では、以下の内容を具体的にお伝えします。
- どのような矯正装置を使用するか
- 抜歯が必要かどうか
- 治療期間の見込み
- 治療費用と支払い方法
- 治療のリスクや副作用
- 治療中の注意点
特に抜歯の必要性については、患者さんの不安が大きいポイントです。抜歯が必要となる主な理由は、歯を並べるスペースの確保や、前歯の突出を改善するためです。抜歯の判断は、顔貌のバランスや骨格の状態、歯の大きさと顎の大きさのバランスなどを総合的に考慮して行います。
矯正治療は一般的に長期間にわたるため、治療計画をしっかり理解し、納得した上で治療を開始することが重要です。分からないことや不安なことがあれば、この段階で遠慮なく質問してください。
治療計画に同意するまでの流れ
治療計画の説明を受けた後、すぐに治療を開始する必要はありません。説明内容をじっくり検討し、家族とも相談した上で決断することをお勧めします。
治療計画に同意する場合は、同意書にサインをいただきます。同意書には、治療内容や費用、リスクなどが記載されています。同意書へのサインは、説明内容を理解し、治療を受けることに同意したという証明になります。
治療費用については、一括払いのほか、分割払いに対応している医院も多くあります。医院独自の分割払いシステムやデンタルローンなど、様々な支払い方法がありますので、ご自身に合った方法を選択してください。
治療計画に同意した後、必要に応じて抜歯などの前処置を行います。抜歯が必要な場合は、矯正歯科医院で行うこともありますが、一般歯科や口腔外科を紹介されることもあります。
矯正装置の装着と調整期間
治療計画に同意し、必要な前処置が完了したら、いよいよ矯正装置の装着です。装置の種類によって装着方法や調整の頻度は異なりますが、ここでは一般的な流れを説明します。

矯正装置の種類と特徴
矯正装置には様々な種類があり、患者さんの症状や希望に合わせて選択します。主な矯正装置は以下の通りです。
- 表側矯正装置(ブラケット):歯の表側に装着する一般的な装置
- 裏側矯正装置(舌側矯正):歯の裏側に装着し、外から見えにくい装置
- マウスピース型矯正装置:透明なマウスピースを使用する取り外し可能な装置
- 拡大床:主に子どもの顎の発育を促す装置
表側矯正装置は最も一般的な装置で、金属製のものからセラミック製の目立ちにくいものまで様々なタイプがあります。治療効果が高く、複雑な症例にも対応できる反面、見た目が気になる方もいらっしゃいます。
裏側矯正装置は、歯の裏側に装着するため外からほとんど見えません。審美性に優れていますが、装置が舌に当たって発音しづらくなることや、調整が難しいといった特徴があります。
マウスピース型矯正装置は、透明なマウスピースを使用するため目立ちにくく、取り外しも可能です。食事や歯磨きの際に取り外せるため衛生的ですが、装着時間を守る必要があり、複雑な症例には不向きな場合もあります。
あなたの症状や生活スタイル、希望に合った装置を選ぶことが大切です。それぞれの装置のメリット・デメリットをよく理解した上で選択しましょう。
定期的な調整の重要性と頻度
矯正装置を装着した後は、定期的な調整が必要です。調整の頻度は装置の種類や治療の段階によって異なりますが、一般的には4〜6週間に1回程度です。
調整では、ワイヤーの交換やゴムバンド(エラスティック)の調整などを行います。これにより、歯に適切な力をかけ続け、少しずつ理想的な位置へと動かしていきます。
調整直後は歯に圧力がかかるため、一時的に痛みや不快感を感じることがあります。しかし、これは通常2〜3日程度で落ち着きます。痛みが強い場合は市販の鎮痛剤で対応できますが、あまりにも痛みが強い場合や長く続く場合は医師に相談してください。
定期的な調整は治療の進行状況を確認する重要な機会です。調整の際には、歯の動きだけでなく、口腔内の健康状態もチェックします。虫歯や歯周病の予防も矯正治療と並行して行うことが大切です。
調整の際には、治療の進行状況や今後の見通しについても説明します。疑問や不安があれば、遠慮なく相談してください。
治療中の注意点と口腔ケア
矯正治療中は、装置が装着されているため通常よりも丁寧な口腔ケアが必要です。また、食事制限や生活上の注意点もあります。ここでは、治療中の注意点と口腔ケアについて詳しく説明します。
矯正装置装着中の食事制限
矯正装置、特に固定式の装置を装着している場合は、いくつかの食事制限があります。装置の破損を防ぎ、治療を円滑に進めるために、以下の食品は避けるか、注意して摂取してください。
- 硬いもの:せんべい、固いパン、氷など
- 粘着性のあるもの:キャラメル、餅、グミなど
- 噛みちぎる必要があるもの:りんごやとうもろこしの丸かじりなど
- 糖分の多いもの:チョコレート、キャンディ、炭酸飲料など(虫歯リスク増加のため)
これらの食品は装置を破損させるリスクがあるだけでなく、装置と歯の間に詰まりやすく、虫歯や歯肉炎の原因となることがあります。
マウスピース型矯正装置の場合は、食事の際に装置を外すため食事制限はありませんが、装置を外している時間は1日2時間程度までにとどめるよう指導されます。また、飲み物を摂取する際も、水以外は装置を外すことが推奨されます。
食事後は必ず歯磨きをし、装置と歯の間に食べ物が残らないようにしましょう。外出先では携帯用の歯ブラシを持参するか、うがいだけでも行うことをお勧めします。
効果的な歯磨き方法と口腔ケアグッズ
矯正装置があると通常の歯磨きだけでは不十分です。装置の周りや下にも汚れが溜まりやすいため、専用の歯ブラシや補助用具を使用した丁寧なケアが必要です。
矯正治療中におすすめの口腔ケアグッズは以下の通りです。
- 矯正用歯ブラシ:ブラケットの周りを効果的に磨ける形状の歯ブラシ
- 歯間ブラシ:ワイヤーの下や歯と歯の間の清掃に適したブラシ
- デンタルフロス:フロス糸通しを使って装置の下の清掃が可能
- 洗口液:歯ブラシが届きにくい部分の殺菌に効果的
- ウォーターフロッサー:水流で装置の周りの汚れを洗い流す器具
歯磨きの基本は、歯と装置の境目を意識して、小さく円を描くように磨くことです。特に装置の周りは汚れが溜まりやすいので、念入りに磨きましょう。
矯正治療中は虫歯や歯周病のリスクが高まります。定期的な歯科検診やクリーニングも並行して受けることをお勧めします。多くの矯正歯科医院では、治療中の口腔ケア指導やクリーニングも行っています。
口腔ケアは矯正治療の成功に直結する重要な要素です。面倒に感じることもあるかもしれませんが、美しい歯並びと健康な口腔環境を手に入れるために、日々のケアを怠らないようにしましょう。
矯正装置の撤去と保定期間
長い矯正治療を経て、ついに装置を外す日がやってきます。しかし、ここで治療が完全に終了するわけではありません。装置撤去後も歯が元の位置に戻らないよう「保定」という重要な段階があります。
装置撤去のタイミングと方法
矯正装置の撤去時期は、治療計画で設定した目標が達成されたかどうかで判断します。具体的には以下のポイントを確認します。
- 歯並びが整っているか
- 噛み合わせが適切か
- 顔貌のバランスが良好か
- 口腔機能(咀嚼、発音など)に問題がないか
これらの条件が満たされたと判断されると、装置の撤去が行われます。撤去の所要時間は装置の種類によって異なりますが、一般的に1〜2時間程度です。
表側矯正装置や裏側矯正装置の撤去は、専用の器具を使ってブラケットを一つずつ丁寧に外していきます。その後、歯の表面に残った接着剤を研磨して除去します。痛みはほとんどありませんが、違和感を感じることはあります。
装置を外した後は、歯の型取りを行い、保定装置を作製します。保定装置は通常、1週間程度で完成します。それまでの間は、仮の保定装置を使用することもあります。
装置撤去後は、長い間慣れ親しんだ装置がなくなり、口の中がスッキリとした感覚を味わえます。しかし、これで治療が完全に終了したわけではありません。次の重要なステップである「保定期間」が始まります。
保定装置の種類と装着期間
保定装置には主に以下の種類があります。
- 取り外し式保定装置:プレートタイプやマウスピースタイプがあり、就寝時や指示された時間に装着
- 固定式保定装置:主に前歯の裏側にワイヤーを接着し、歯の位置を保持
保定装置の種類は、治療内容や患者さんの生活スタイル、年齢などを考慮して選択します。多くの場合、上の歯には取り外し式、下の歯には固定式を併用することが多いです。
保定期間は一般的に2〜3年程度ですが、患者さんの年齢や治療内容によって異なります。保定期間中は定期的な通院が必要で、保定装置の調整や口腔内の状態確認を行います。通院頻度は徐々に減っていき、最終的には半年に1回程度になることが多いです。
保定装置の装着は矯正治療の成果を維持するために非常に重要です。指示された通りに装着しないと、歯が元の位置に戻ってしまう「後戻り」が生じる可能性があります。特に治療直後は後戻りのリスクが高いため、保定装置の装着を怠らないようにしましょう。
実は、矯正治療後の保定は一生続くものと考えるべきです。年齢を重ねるにつれて歯並びは少しずつ変化するため、理想的には就寝時の保定装置の使用を長期間継続することが推奨されます。
矯正治療のよくある質問と回答
矯正治療を検討する際、多くの方が同じような疑問や不安を抱えています。ここでは、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。
治療期間と費用に関する疑問
「矯正治療はどのくらいの期間がかかりますか?」
治療期間は症例の難易度や使用する装置によって大きく異なります。一般的には1年半〜3年程度ですが、軽度の症例であれば1年以内で終了することもあります。一方、複雑な症例や成長期の子どもの治療では、より長期間かかることもあります。
「矯正治療の費用はどのくらいですか?」
矯正治療は基本的に自由診療(保険適用外)となるため、医院によって費用は異なります。一般的な費用の目安は以下の通りです。
- 表側矯正装置:50万円〜80万円程度
- 裏側矯正装置:80万円〜120万円程度
- マウスピース型矯正装置:60万円〜100万円程度
- 部分矯正:20万円〜40万円程度
これらの費用には、装置代、調整料、保定装置代などが含まれていることが多いですが、医院によって料金体系は異なります。初診相談時に詳細な費用について確認することをお勧めします。
「矯正治療は医療費控除の対象になりますか?」
矯正治療は、顎変形症などの一部の症例を除き、基本的に保険適用外の自由診療となります。しかし、自由診療であっても医療費控除の対象となります。年間の医療費が10万円を超えた場合、確定申告をすることで所得税の一部が還付されます。
治療中の痛みや違和感について
「矯正治療は痛いですか?」
矯正装置の装着直後や調整後は、歯に圧力がかかるため痛みや違和感を感じることがあります。しかし、これは通常2〜3日程度で落ち着きます。痛みの程度には個人差がありますが、多くの場合、市販の鎮痛剤で対応できる程度です。
「矯正装置で話しにくくなりますか?」
特に装置装着直後は発音に影響が出ることがあります。特に裏側矯正装置では舌が装置に触れるため、「さ行」や「た行」の発音が難しくなることがあります。しかし、多くの場合1〜2週間程度で徐々に慣れていきます。
「矯正治療中に虫歯になりやすいですか?」
矯正装置があると歯磨きが難しくなるため、虫歯や歯肉炎のリスクは確かに高まります。しかし、適切な口腔ケアを行うことで予防は可能です。専用の歯ブラシや補助用具を使用した丁寧なケア、定期的な歯科検診が重要です。
矯正治療は長期間にわたりますが、その先には美しい歯並びと健康的な噛み合わせが待っています。不安や疑問があれば、遠慮なく担当医に相談してください。私たち矯正歯科医は、患者さん一人ひとりに寄り添い、最適な治療を提供するために努めています。
まとめ:矯正治療成功のためのポイント
歯列矯正は、美しい歯並びを手に入れるだけでなく、噛み合わせの改善による全身の健康維持にも貢献する重要な治療です。ここまで初診から治療終了までの流れを詳しく解説してきましたが、最後に矯正治療を成功させるためのポイントをまとめます。

治療成功のための3つの要素
矯正治療を成功させるためには、以下の3つの要素が重要です。
- 信頼できる矯正歯科医の選択
- 患者さん自身の協力と理解
- 適切な口腔ケアの継続
まず、信頼できる矯正歯科医を選ぶことが大切です。日本矯正歯科学会認定医など、専門的な知識と技術を持った医師を選ぶことをお勧めします。初診相談では、医師の説明がわかりやすいか、質問に丁寧に答えてくれるかなどをチェックしましょう。
次に、患者さん自身の協力と理解が不可欠です。矯正治療は医師と患者さんの二人三脚で進めるものです。定期的な通院、装置の適切な使用、食事制限の遵守など、医師の指示に従うことが治療成功の鍵となります。
最後に、適切な口腔ケアの継続が重要です。矯正装置があると歯磨きが難しくなりますが、専用の歯ブラシや補助用具を使用した丁寧なケアを続けることで、虫歯や歯周病を予防できます。
矯正治療は長い道のりですが、その先には美しい笑顔と健康的な口腔環境が待っています。治療中に不安や疑問があれば、遠慮なく担当医に相談してください。
私たちみなみもりまちN矯正歯科では、患者さん一人ひとりに合わせた最適な矯正治療を提供しています。初回相談は無料ですので、歯並びでお悩みの方はお気軽にご相談ください。
美しい歯並びは、あなたの人生に新たな自信をもたらします。ぜひ一緒に理想の歯並びを目指しましょう。
詳細はみなみもりまちN矯正歯科のホームページをご覧ください。大阪メトロ堺筋線「南森町駅」より徒歩1分、JR東西線「大阪天満宮駅」より徒歩3分と通院しやすい立地です。夜間診療や土日診療も行っておりますので、お仕事や学校帰りにも通いやすい環境を整えています。
著者情報
院長 農端 健輔

経歴
2007年大阪歯科大学 卒業
2012年大阪歯科大学大学院私学研究科博士課程修了
2012年大阪歯科大学歯科矯正学講座において助教として勤務
2016年日本矯正歯科学会 認定医取得
2017年みなみもりまちN矯正歯科 開設
所属団体
近畿東海矯正歯科学会
日本矯正歯科学会
日本顎変形症学会
日本口蓋裂学会
World Federation of Orthodontists







