矯正治療中の痛みを和らげる10の方法〜専門医が教える即効対策
矯正治療中の痛みはなぜ起こる?その原因と特徴

矯正治療を始めると、多くの患者さんが「思ったより痛い」と感じることがあります。これは決して珍しいことではなく、歯が動く過程で生じる自然な反応なのです。
矯正治療では、歯に一定の力をかけることで歯を少しずつ動かしていきます。この力によって、歯の周りの組織では「プロスタグランジン」や「ブラジキニン」といった化学物質が放出され、炎症反応が起きます。この炎症反応が痛みとして感じられるのです。
痛みの強さには個人差がありますが、まったく痛みを感じずに矯正治療が完了することは少ないでしょう。しかし、治療が進むにつれて痛みに慣れていくことも事実です。
矯正治療中に感じる痛みには、主に以下のようなパターンがあります。
- ・装置装着直後の痛み:矯正装置を初めて装着した直後から数時間後に痛みが現れ始め、1〜3日間がピークとなります。その後、1週間程度で徐々に和らいでいきます。
- ・調整後の痛み:定期的な調整の後も同様に痛みを感じることがありますが、治療が進むにつれて痛みは軽減されていく傾向にあります。
- ・装置が粘膜に当たる痛み:ブラケットやワイヤーが頬や唇、舌などに当たって傷ができることがあります。
- ・咀嚼時の痛み:特に硬いものを噛んだときに強い痛みを感じることがあります。
痛みの程度は、装置の種類や調整の内容、そして患者さん自身の痛みの感じ方によっても異なります。マウスピース矯正は、ワイヤー矯正に比べて弱い力で少しずつ歯を動かすため、比較的痛みが少ないと言われています。
痛みはいつまで続く?矯正治療中の痛みの時間的変化
矯正治療中の痛みは永続的なものではありません。時間の経過とともに変化していきます。
装置を装着してから平均6.4時間ほどで痛みを感じ始め、痛みのピークは装着から約35.7時間後、つまり翌日の夕方頃に訪れることが多いです。その後は徐々に痛みが軽減し、1週間程度で落ち着いてくるのが一般的です。
ただし、定期的な調整のたびに痛みが再び現れることがあります。特に太いワイヤーに交換したときや、新しいマウスピースに交換したときは、再び痛みを感じやすくなります。
治療が進むにつれて、歯や周囲の組織が矯正力に慣れてくるため、調整後の痛みは次第に軽減されていく傾向にあります。多くの患者さんは、治療開始から3〜6ヶ月程度で痛みに対する耐性がついてきたと感じるようです。
装置が粘膜に当たる痛みについては、口内環境が装置に慣れるまでの1〜2週間程度で改善することが多いですが、特に痛みが強い場合は歯科医院での調整が必要になることもあります。
矯正治療全体を通して見ると、治療初期の数ヶ月間が最も痛みを感じやすい時期と言えるでしょう。その後は、定期的な調整があっても、痛みの程度は軽減されていくことが多いです。
矯正治療中の痛みを和らげる10の即効対策

矯正治療中の痛みは避けられないものですが、適切な対処法を知っておくことで、その不快感を最小限に抑えることができます。ここでは、私が臨床経験から効果的だと感じている10の対策をご紹介します。
1. 冷たいものを口に含む
冷たい水や氷水を口に含むことで、一時的に痛みを和らげることができます。冷却効果により血管が収縮し、炎症反応が抑えられるためです。氷水でうがいをしたり、アイスクリームやシャーベットなどの冷たい食べ物を食べるのも効果的です。ただし、冷たすぎるものを長時間当てると歯の神経に負担をかけることがあるので、短時間にとどめましょう。
2. 柔らかい食べ物を選ぶ
矯正装置の調整直後は、特に硬い食べ物を噛むと強い痛みを感じることがあります。そのため、調整後の数日間は、お粥、パスタ、豆腐、煮込み料理など、柔らかい食べ物を中心に食事をすることをおすすめします。噛む力が弱くても食べられる食事を心がけることで、痛みを軽減できます。
3. 食べ物を小さく切る
食べ物を一口大に小さく切ることで、噛む力を分散させ、痛みを軽減することができます。大きな塊を強く噛む必要がなくなるため、歯にかかる負担が減ります。特に肉類や野菜などは、あらかじめ小さく切っておくと食べやすくなります。
4. 痛み止めを適切に使用する
どうしても痛みが強い場合は、市販の鎮痛剤を服用することも一つの方法です。イブプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が効果的です。ただし、痛み止めの使用は一時的な対処法として考え、常用は避けるようにしましょう。また、持病がある方は、かかりつけ医に相談してから服用することをおすすめします。
5. 矯正用ワックスを活用する
ブラケットやワイヤーが口内の粘膜に当たって痛みや傷ができる場合は、矯正用ワックスを使用するとよいでしょう。ワックスは装置の尖った部分や引っかかる部分に貼り付けることで、粘膜への刺激を軽減します。歯科医院でもらえることが多いですが、薬局でも購入できます。
6. 温かい塩水でうがいをする
口内に傷ができた場合は、温かい塩水でうがいをすると痛みが和らぎます。塩には殺菌作用があり、傷の治りを早める効果も期待できます。コップ1杯のぬるま湯に小さじ1/2程度の塩を溶かし、1日数回うがいをしましょう。
7. マッサージで血行を促進する
指の腹を使って歯ぐきを優しくマッサージすることで、血行が促進され痛みが和らぐことがあります。特に痛みを感じる歯の周りを中心に、円を描くように優しくマッサージしてみましょう。強くこすると逆に痛みが増すことがあるので、力加減には注意が必要です。
8. 矯正用の痛み緩和ジェルを使用する
歯科医院や薬局で販売されている矯正用の痛み緩和ジェルを使用するのも効果的です。これらのジェルには局所麻酔成分が含まれており、塗布することで一時的に痛みを和らげることができます。使用前に歯科医師に相談し、用法・用量を守って使用しましょう。
9. 適切な口腔ケアを心がける
矯正装置の周りに食べかすが溜まると、炎症を引き起こし痛みが増すことがあります。そのため、食後はしっかりと歯磨きを行い、装置の周りを清潔に保つことが大切です。ただし、痛みがある時は優しく磨くようにしましょう。矯正用の歯ブラシや、歯間ブラシ、ウォーターフロスなどを活用すると効果的です。
10. リラクゼーション法を試す
痛みは精神的なストレスによって増幅されることがあります。深呼吸やヨガ、瞑想などのリラクゼーション法を取り入れることで、痛みに対する感受性を下げることができるかもしれません。また、好きな音楽を聴いたり、趣味に没頭したりして、痛みから注意をそらすことも効果的です。
マウスピース矯正とワイヤー矯正、痛みの違いは?
矯正治療には大きく分けて「マウスピース矯正」と「ワイヤー矯正」の2種類があります。痛みの観点から見ると、これらの治療法にはどのような違いがあるのでしょうか。
マウスピース矯正は、透明なプラスチック製のマウスピースを使用して歯を動かす方法です。一方、ワイヤー矯正は、歯に装着したブラケットにワイヤーを通して歯を動かす従来の方法です。
マウスピース矯正の痛み
マウスピース矯正は、弱い力で少しずつ歯を動かすため、ワイヤー矯正に比べて痛みが少ないと言われています。特に以下のような特徴があります。
- 痛みの程度が比較的軽い:弱い力で歯を動かすため、強い痛みを感じにくいです。
- 口内の傷ができにくい:プラスチック製のマウスピースは表面が滑らかなため、頬や唇を傷つけることが少ないです。
- 新しいマウスピースに交換する際に痛みを感じる:通常1〜2週間ごとに新しいマウスピースに交換しますが、その際に一時的な痛みを感じることがあります。
ワイヤー矯正の痛み
ワイヤー矯正は、マウスピース矯正に比べて強い力で歯を動かすため、痛みを感じやすい傾向にあります。以下のような特徴があります。
- 装置装着直後の痛みが強い:ブラケットとワイヤーを初めて装着した直後は、比較的強い痛みを感じることが多いです。
- 調整のたびに痛みが再発する:定期的な調整のたびに痛みが再び現れますが、治療が進むにつれて痛みは軽減される傾向にあります。
- 口内の傷ができやすい:ブラケットやワイヤーが頬や唇、舌などに当たって傷ができることがあります。
ただし、最近のワイヤー矯正では、柔らかいNiTIワイヤーや摩擦の少ないローフリクションブラケットなどの装置を使用することで、以前に比べると痛みは少なくなっています。
どちらの治療法を選ぶかは、痛みだけでなく、治療の効果や期間、費用、見た目などを総合的に考慮して決める必要があります。また、症例によっては選択できる治療法が限られることもあります。まずは矯正歯科医師に相談し、自分に合った治療法を選びましょう。
痛みが長引く場合や強すぎる場合の対処法

矯正治療中の痛みは通常、一時的なものですが、痛みが長引いたり、強すぎたりする場合には適切な対処が必要です。以下のような状況では、早めに歯科医院に相談することをおすすめします。
痛みが1週間以上続く場合
通常、矯正装置の装着や調整後の痛みは1週間程度で落ち着いてくるものです。しかし、1週間以上経っても強い痛みが続く場合は、何らかの問題が生じている可能性があります。装置の調整が強すぎる、装置が破損している、歯や歯ぐきに炎症が起きているなどの原因が考えられます。
痛みが非常に強く、日常生活に支障をきたす場合
矯正治療中の痛みは、ある程度は避けられないものですが、痛みが強すぎて食事や睡眠に支障をきたすほどであれば、歯科医師に相談しましょう。装置の調整が必要かもしれません。
痛み以外の症状を伴う場合
矯正治療中に痛みだけでなく、歯ぐきの腫れ、出血、膿、口臭の悪化、発熱などの症状を伴う場合は、歯周病や歯の感染症などの可能性があります。これらの症状がある場合は、早急に歯科医院を受診しましょう。
装置が破損した場合
ブラケットが外れた、ワイヤーが曲がった、マウスピースが割れたなど、装置が破損した場合は、痛みの原因になることがあります。また、破損した装置をそのまま使用し続けると、治療効果が得られないだけでなく、口内を傷つける恐れもあります。装置の破損に気づいたら、すぐに歯科医院に連絡しましょう。
痛みの軽減のための歯科医院での対応
歯科医院では、痛みの原因に応じて以下のような対応が行われます。
- 装置の調整:痛みが強すぎる場合は、装置の力を弱めるなどの調整を行います。
- 破損した装置の修理・交換:装置が破損している場合は、修理や交換を行います。
- 口内の傷への対応:装置が当たって口内に傷ができている場合は、ワックスの使用方法を指導したり、装置の形を調整したりします。
- 歯周病や感染症の治療:歯周病や感染症がある場合は、それらの治療を優先的に行います。
矯正治療中の痛みは避けられないものですが、あまりにも強い痛みや長引く痛みは正常ではありません。痛みに不安を感じたら、我慢せずに担当の歯科医師に相談することが大切です。適切な対応により、快適に矯正治療を続けることができます。
矯正治療中の痛みに関するよくある質問
矯正治療を検討している方や、現在治療中の方から、痛みに関してよく質問を受けます。ここでは、そうした疑問にお答えします。
Q1: 矯正治療は本当に痛いのですか?
個人差はありますが、多くの方は矯正装置の装着直後や調整後に痛みを感じます。ただし、その痛みは通常1週間程度で落ち着いてきます。また、最近の矯正技術の進歩により、以前に比べて痛みは軽減されています。痛みの感じ方には個人差があり、軽度の不快感程度で済む方もいれば、数日間は鎮痛剤が必要な方もいます。
Q2: 子どもと大人では痛みの感じ方に違いはありますか?
一般的に、子どもの方が大人よりも痛みに対する適応力が高いと言われています。子どもは骨の代謝が活発で、歯の移動がスムーズに行われるため、痛みが軽減される傾向にあります。また、心理的な面でも、子どもは新しい状況に順応しやすいという特徴があります。ただし、これも個人差があるため、一概には言えません。
Q3: 痛み止めを飲んでも大丈夫ですか?
矯正治療中の痛みに対して、市販の鎮痛剤を服用することは問題ありません。特にイブプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が効果的です。ただし、用法・用量を守り、常用は避けるようにしましょう。また、持病がある方は、かかりつけ医に相談してから服用することをおすすめします。
Q4: 痛みが強いと治療効果が高いのでしょうか?
痛みの強さと治療効果は必ずしも比例しません。適切な力で歯を動かすことが重要であり、強すぎる力をかけると逆に歯の移動が遅くなったり、歯根の吸収などの副作用が生じたりする可能性があります。痛みが強すぎる場合は、歯科医師に相談することをおすすめします。
Q5: 矯正治療中の痛みで眠れない場合はどうすればいいですか?
就寝前に痛み止めを服用する、温かい飲み物を飲む、リラックスするための深呼吸やストレッチを行うなどの方法が効果的です。また、枕の高さを調整して、頭部への血流を改善することも有効かもしれません。それでも眠れないほどの強い痛みがある場合は、翌日に歯科医院に連絡しましょう。
Q6: 矯正治療中の痛みを和らげるための食事の工夫はありますか?
痛みがある時期は、柔らかい食べ物を中心に食事をすることをおすすめします。例えば、お粥、パスタ、豆腐、煮込み料理、スープ、ヨーグルト、バナナなどが適しています。また、食べ物を小さく切ることで、噛む力を分散させることができます。冷たい食べ物や飲み物も、一時的に痛みを和らげる効果があります。
まとめ:痛みを乗り越えて理想の歯並びへ
矯正治療中の痛みは避けられないものですが、正しい知識と適切な対処法を身につけることで、その不快感を最小限に抑えることができます。
痛みの程度や持続時間には個人差がありますが、一般的には装置の装着や調整後の1〜3日間がピークで、1週間程度で落ち着いてくるものです。また、治療が進むにつれて痛みに対する耐性がついてくるため、次第に痛みを感じにくくなっていきます。
痛みを和らげるためには、冷たいものを口に含む、柔らかい食べ物を選ぶ、食べ物を小さく切る、適切に痛み止めを使用する、矯正用ワックスを活用するなどの方法が効果的です。また、定期的なメンテナンスと適切な口腔ケアを心がけることも重要です。
痛みが長引いたり、強すぎたりする場合は、我慢せずに歯科医師に相談しましょう。適切な対応により、快適に矯正治療を続けることができます。
矯正治療は一時的な痛みを伴うかもしれませんが、その先には理想の歯並びと健康的な口腔環境が待っています。痛みを乗り越えることで得られる結果は、必ずや皆さんの期待に応えるものになるでしょう。
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著者情報
院長 農端 健輔

経歴
2007年大阪歯科大学 卒業
2012年大阪歯科大学大学院私学研究科博士課程修了
2012年大阪歯科大学歯科矯正学講座において助教として勤務
2016年日本矯正歯科学会 認定医取得
2017年みなみもりまちN矯正歯科 開設
所属団体
近畿東海矯正歯科学会
日本矯正歯科学会
日本顎変形症学会
日本口蓋裂学会
World Federation of Orthodontists








